東京地方裁判所 昭和37年(行)19号 判決 1966年3月30日
原告 山田文七
<ほか一三名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 江碕健三
右訴訟復代理人弁護士 脇坂雄治
被告 農林大臣
坂田英一
右訴訟代理人弁護士 難波理平
右指定代理人 上野国夫
<ほか三名>
主文
1、原告らの申立てのうち、愛知県知事が昭和三六年一一月九日なした別紙物件目録第一ないし第九記載の各土地の売渡処分に対する被告の許可処分の取消しを求める部分についてはその申立てを却下し、その余の部分については請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
別紙「要約書」記載のとおりである。
理由
一、被告の許可処分の取消請求について
愛知県知事が本件各土地につき原告ら主張のような売渡処分をしたことは当事者間に争いがない。
原告らは、農林大臣が都道府県知事のなす農地売渡処分について主務大臣として監督権限を有することを前提として、被告が愛知県知事のした違法な右売渡処分をみずから取り消しまたは同知事をして取り消させることなくこれを黙認したのは積極的に右売渡処分を許可したものとみなすべきであると主張し、右許可処分の取消しを求めている。しかしながら、農地法その他関係諸法令を通覧しても農林大臣が都道府県知事のなす農地売渡処分について許可するか否かの権限を有することを定めた規定は見当らないから、かかる権限を有しないものと解すべきである。したがって、仮に被告が愛知県知事の本件各土地に対する売渡処分をみずから取り消しまたは同知事をして取り消させなかったとしても、これをもって原告ら主張のように右売渡処分を許可したものとみることはできない。よって、被告の許可処分の存在することを前提としてその取消しを求める原告らの本件申立ては取消しの対象たる行政処分の存在を欠く不適法なものとして却下を免れない。
二、訴願却下処分の取消請求について
(一) 原告らがその主張の日時に被告に対し訴願を提起したことおよび被告がその後右訴願書を原告らに返戻したことは当事者間に争いがない。
(二) 原告らは被告の右訴願書返戻行為をもって訴願却下処分であると主張し、被告はこれを争うので、この点について検討するに、成立に争いのない甲第一号証によれば、被告は原告らに右訴願書を返戻するに当って右訴願書は愛知県知事を経由していないため訴願法第二条第一項の規定に違背していて審査することができないから改めて同知事を経由して提出するよう付記していることが認められるから、これによれば被告の右訴願書返戻行為は「訴願書の返戻」という言葉こそ用いているがその実質は原告らの訴願を訴願法第二条第一項の規定に違背した不適法なものとして却下したものと解するのが相当である。よって、訴願却下処分が存在しないことを前提とする被告の本案前の申立ては失当である。
(三) そこで本案について検討する。原告らの被告に対する訴願の趣旨およびその理由は必ずしも明らかでないが、原告らの主張によれば右訴願は被告が愛知県知事のした本件各土地の売渡処分に対してなした許可処分を不服としてその取消しを求めるものであったというのであるから、そうとすれば、被告の許可処分が存在しないことは前述のとおりであるから、右訴願は不服の対象たる処分の存在を欠いた不適法なものとなり、被告がこれを却下したことは結局において正当となる。また、仮に右訴願が愛知県知事のした右売渡処分そのものを不服の対象として提起されたものとするならば、原処分庁たる同知事を経由せずになされた右訴願は訴願法第二条第一項の規定に違背する不適法なものであるから、被告がこれを却下したことは正当である。
したがって、いずれにしても被告が原告らからの訴願を却下したことは正当であるから、右却下処分の取消しを求める原告らの本訴請求は失当として棄却すべきである。
三、よって、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 高林克己 石井健吾)
<以下省略>